源氏と平氏が争い乱れる平安時代末期、源氏から平氏へと主君を変え戦い続けた斎藤実盛さんという1人の老齢の武将がいました。
源氏家臣時代に助けた幼子、28年の月日が経ったのち、平氏に味方していた時に敵として出会うことになるのです。
※歴史上のことなので諸説あります。
この記事のあらすじ
源氏の家臣時代に2歳の子を助ける!
源義朝(みなもとのよしとも)の家臣!
当時、源氏は親子、兄弟間での争いが起こっていました。
のちの鎌倉幕府初代将軍で有名な源頼朝さんの父である源義朝さんと、その父・源為義さんです。
義朝さんは南関東の地で勢力を伸ばし始め、さらには父の官職さえも超えてしまう勢いでした。
脅威に感じた為義さんは、北関東の地に自身の次男であり義朝さんの弟・源義賢さんを向かわせます。
南関東と北関東の間の国であった武蔵国(現・埼玉)を拠点にしていた斎藤実盛さんは、義朝さんに味方していましたが、のちに義賢さんに従うようになります。
源義賢の家臣!そして「大蔵合戦(おおくらかっせん)」!
義賢さんに従う武蔵国の武士らの動きを脅威に感じていた義朝さんの長男・源義平さん(頼朝さんの兄)は、突如として武蔵国の大蔵館に拠点を構えていた義賢さんを襲撃しました。
わずか15歳の若武者であった義平さんに義賢さんは討ち取られてしまいます。
この戦いの時、まだ2歳の義賢さんの子は実盛さんの手で信濃国(現・長野)へと助けられたのです。
実盛さんは再び義朝さんに仕え、忠実な武将として京の都での戦いに奮戦することとなります。
平氏の家臣時代に悲劇的な再会!
源氏の衰退!
1156年の朝廷が2つに分裂して争った「保元の乱」、義朝さんは平氏の棟梁・平清盛さんと共に戦い、父・為義さんや兄弟らに勝利します。
しかし、それから3年後の「平治の乱」にて、今度は清盛さんと争い敗戦してしまいます。
義朝さんは東国に落ち延び再起を計ろうとしますが、その道中で殺害されてしまいます。これにより源氏は衰退していき、平氏全盛の時代がやって来るのです。
義朝さんの家臣だった実盛さんは、無事に関東に落ち延び 、今度は平氏の家臣として活躍していくことになります。
20年後、源氏が「平氏追討」するため各地で挙兵を開始。
義朝さんの子・頼朝さんも鎌倉で挙兵を始めましたが、実盛さんは平氏方にとどまり源氏の敵として立ち塞がる事になるのです。
水鳥の羽音で勝敗が決まる?
1180年、源氏頼朝軍と平氏軍が富士山の麓の富士川で相見えます。
しかし、この戦いでは平氏軍の実盛さんの「東国の武士の勇猛さ」を味方に聞かせたところ恐怖心を抱かせてしまい、さらには兵糧が足りないこと、相次ぐ兵士の脱走などにより士気は低下していました。
そんな中、源氏軍は夜襲で背後を衝こうと富士川に馬を乗り入れると、水鳥の大軍が一斉に飛び立ちました。これに驚いた平氏軍は大混乱に陥り撤退、戦闘が行われないままこの「富士川の戦い」は源氏の勝利で終わりました。
平氏軍大将が京へ逃げ戻った時には、隊は10騎ほどだったそうです。
「篠原の戦い」での再会!
3年後の1183年、頼朝さんの従兄弟であり信濃国で挙兵を開始していた木曾義仲さんと平氏軍は加賀国篠原(現・石川)で戦います。
半月前、すでに平氏軍は加賀国の国境にある俱利伽羅峠で敗戦し壊滅状態にあり戦況は誰が見ても明らかでした。
しかし、その中で老将・実盛さんはこの地を最後の地と決めており、最後尾の守備をする殿を引き受け、
「最後だからこそ若々しく若武者らと戦いたい、老武者と慰めを受けるのも悲しいからな」と、白髪を黒く染め戦場に赴いていました。
味方が全て敗走する中、実盛さんは自身1人となっても奮戦し続けましたが、最後は打ち取られてしまいます。享年73歳。
義仲さんが首の確認をした際、黒髪であったために実盛さんであると判別出来きませんでしたが、池で洗わせたところ、みるみる白髪に変わっていき本人であると確認されました。
実は義仲さんは、実盛さんがかつて助けた源義賢さんの2歳の幼子だったのです。
命の恩人を討ち取ってしまった義仲さんは、人目もはばからず涙を流したのです。
斎藤実盛、死後の伝説!
義仲さんは、のちに実盛さんの身に着けていた兜を供養のために多太神社(石川県小松市)に奉納しました。
この兜は、かつての主君・源義朝さんから保元の乱の褒美として頂いたものでした。
それからずっと後の1689年、俳人・松尾芭蕉さんが「奥の細道」の紀行でこの地を訪れ実盛さんの兜を見ると、
「むざんやな 甲の下の きりぎりす」
と、実盛さんを偲びました。
「思いとは違う戦場に向かうことはとても悲しいこと。兜の下のこおろぎもそれを悲しみ鳴いているようだ」という句だそうです。きりぎりすは現在のこおろぎなのだと。
実盛さんの「篠原の戦い」は、『平家物語』「実盛」としても読み継がれ、謡曲や歌舞伎となって現代でも親しまれているのです。
コメント